ウィーン分離派 1898-1918展
 

クリムトからシーレまで


グスタフ・クリムト《パレス・アテネ》
1898年 油彩、キャンバス
ウィーン市立歴史博物館蔵

妖艶な香りただようグスタフ・クリムト作「パラス・アテネ」(1898年)。作品の前に立つと作品を見ているはずの‘わたし’が作品に見つめられているよう。
私の心の奥底まで見ているような、そのゆるぎないまなざし。

戦士の手には、ラテン語名「ミネルヴァ」、学芸の神様が守護神として描かれている。
大いなる挑戦を試みる「戦う人」と「彼を守る神」。
ウィーン近郊に生まれた画家クリムトはどんな目をしながら、
この作品を描いたのだろうか。
作品の向こう側の様子が知りたくなる。
しばし作品に見つめられて立ちすくんでいた。


画家グスタフ・クリムトが中心になり、当時の革新的なアーティストたちが集まって1897年に結成したのが「ウィーン分離派」。当時は正統的な画家が認められるアカデミズムが
台頭。アカデミズムを打破しようとしたのが「芸術における自由」を求める画家や工芸作家、建築家、デザイナーたちである。

時は19世紀末から20世紀初頭。
新しい世紀がやってくる「ワクワク感」とある時代が終わるという寂寥感。
騒ぎと哀しみ。アカデミズムと革命者たち。
当時はどんな空気が漂っていたのだろうか。
どんよりとした曇り空から少しだけ差し込む光を想い起してしまう。


「時代には時代の芸術を、芸術にはその自由を」
分離派のスローガンが
Bunkamura ザ・ミュージアムに入ると左手に大きく掲げられている。


「私たちにとっても大いなる挑戦」と話すのは
ザ・ミュージアム本展覧会広報担当の高山さん。
展示室に入ると、「分離派」のエネルギーがうずまいている。
これまでの分離派展のポスターが目に入ってくる。
その中にはなんと日本の画家・菊川英山が手がけた
浮世絵仕立てのポスターが。
1900年に作成された第6回分離派展のポスターである。
ぐるりとポスターが並ぶ展示室の中央には、分離派展が開催されるウィーンの「分離派館」の「模型」(ヨ−ゼフ・マリア・オルブリヒ作)がある。
目線をまっすぐ上に持ってくると、冒頭の「パラス・アテネ」が静かに私を見つめている。その作品だけ黒い壁にラメが施されている。

「今回も前回(「コーポレート・アート展」)に引き続き、『場の空気、雰囲気作り』も工夫しました」(広報担当・高山さん談)だけあって、壁の色を変えたり、作品の配置にもこだわって、見る人の目を捉えて離さない。

クリムト好きにはたまらないのはもちろんのこと、
分離派展にマネ、モネ、ボナ−ル、シニヤックから
ロダンの作品などがあって、「ウィーン分離派」の幅広さが魅力のひとつ。
分離派の豊かな国際性を物語っている。


ところでロダンと言えば「考える人」が有名だが、
こちらにあるのは「歩く人」(1900年作)。
決してギャグではないのだが、
「歩く人」には躍動感があって、ひと味違うロダンの作品が
楽しめる。
そして、何気なく置いてある作品の中に
あのムンクの「罪」(1901年/リトグラフ)が・・・。
黒く長い髪の女性が目をむいている。驚いている。
思い出すのはあの作品、「叫び」。
「叫び」よりもシンプル。
だけれど、やっぱり驚いている。


ウィーン分離派が目指したのは絵画だけではなく、
建築や工芸、彫刻なども含めた「綜合(そうごう)芸術」。
実際、こうして形になってまとまったものを目の当たりにすると「あっぱれ」のひとこと。

家具のデザイナーとして知られるスコットランド出身の
チャールズ・レニ−・マッキントッシュの作品も展示。
背中の高いハイバックチェア−あり、
アール・ヌーボーの影響を受けた印象的な吊り下げランプあり。
紫色にゆらゆらと輝いたランプがくっきりと心に残っている。
インテリア関係の展示室は「市松模様」にまとめられていたり、
銀色の四角い柱が置いてあったり、効果的な演出。


エゴン・シーレ《バック・ヌード》
1911年 鉛筆・グワッシュ、紙
ウィーン市立歴史博物館蔵
その部屋を抜けた左側の真っ赤な壁の部屋には
エゴン・シーレの作品が集められている。
裸の絵が多い。
作品に登場する男女はややうつろな目で私たち鑑賞者を
見つめている。
胸をあらわにする女性。
背中を向ける男性。
むき出しになっている心たち。
真っ赤な壁とあらわになっている心とがぴったりと重なる、展示室・・・。
「ゴッホのひまわり」がこの世に登場してから、
ひまわりの絵が一時期ブームになったそうだが、
シーレのひまわりは太陽のような黄色いひまわりとは全く違う。
生命力みなぎるひまわり、を根底から覆す茶色いひまわり。
かなしい、かなしい、かなしい、と叫びながらも
天を見つめ続けている。
シーレは分離派に属してはいなかったし、クリムトさえ、
分離派の流れにうんざりしてしまい、1905年にやめてしまったが、
シーレの作風に惚れ込んだクリムトが特別推薦をして
分離派展に招いた、そんないきさつがあるそうだ。

   *** *** *** *** *** ***
クリムトとシーレに見つめられ、呆然としながら後にするミュージアム。
実のところ、以前はクリムトもシーレもそれほど興味がなかったが、今回のように様々な作品を見たり、彼らの目指す「自由」を知ってしまうと
やみつきになってしまう。
もう一度見てみたい、と思ってしまう展覧会である。


日程:2月24日まで(開催中無休)
開館時間:午前10時〜午後7時まで(入館は閉館30分前まで、
※金、土曜日は午後9時まで開館)
交通手段:渋谷駅から徒歩7分ほど、東急本店並び
住所:Bunkamura ザ・ミュージアム
    〒150-8507 渋谷区道玄坂2-24-1 Bunkamura地下1F
電話:03-3272-8600(ハローダイアル)
URL:
 Bunkamura ザ・ミュージアムホームページはこちら!




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