ミニマル マキシマル展
楽しい!ミニマルアート  
 1つの素朴な木箱がある。箱の中身は見えないが、木を切る音が静かに流れてくる。木箱を作るのにかかった3時間半が録音されたテープが木箱の中に内蔵されているのか、木箱に耳を近づけると音がもっとよく聞こえてくる。
 そして、音を聞いているうちに、自分の頭には木箱が作られている映像が浮かび上がってくる(ロバート・モリス作「作られたときの音がする箱」)。

 「これがアートなのかしら?」美術館でつぶやきが漏れる。鉄の箱の中に顔を近づけると石鹸の香りがする。椅子にプラスチックをかぶせた「彫刻ベンチ」。イスを幾何学的に並べたもの・・・。「この空間と作品の中に自分がとけ込んだり、作品を見て考える、これがミニマルアートの醍醐味なんだけどなぁ・・・」。確かに私もはじめて「ミニマルアート」を見たとき、よく分からなかったけれど・・・。そして今も作品を見ながら「学んでいる」最中だ。

 ミニマルアート/Minimal Artは1960年代にアメリカで始まった造形作品。作品の材料に木材やガラス、工業製品など素材をそのままに近い状態で使う。「切りつめる」あるいは「最小限」の構成要素から作品をつくることに由来する。
 機能美を重んじたドイツのバウハウス運動、モンドリアンが作ったオランダのデ・ステイルなどの影響も受けている。アメリカの抽象表現主義のロスコの作品からもミニマルアートの誕生が予感できる。そして、フランク・ステラも代表格作家として知られる。

ドナルド・ジャッド「無題」
 今回、千葉市美術館ではドナルド・ジャッド、ロバート・モリス、カール・アンドレ、ソル・ルウィットなど、巨匠たちだけではなく、若手の作品も集められ、ミニマルアートがどのように継承されてきたたかが分かるように展示されている(6月3日まで開催。インスタレーション、立体作品など38作品が展示)。
 巨匠の作品も最近、活躍中の作家の作品もともに面白い。ほくそ笑んでしまう作品ばかりだが、背後できちんと計算されている。特に90年代に作られた作品は愉快なものが多い気がする。

ピオトル・ウクランスキー
「無題《ダンス・フロア》」
 ポーランド出身のピオトル・ウクランスキーの「無題《ダンス・フロア》(アメリカのミニマリズムがサタデー・ナイト・フィーバーに出会う)」はなかなか面白い。「似たようなメロディを繰り返すことで陶酔効果を増す」そうでああるが、ディスコサウンドが流れる。イギリスの「パルプ-pulp-」というポップバンドの音楽だそうだ。ディスコティックにカラフルなライトがフロアに点滅する。横にはソファーが置いてあり、カタログなどが自由に読めるようになっている。くつろぎの空間。こうして作品の「空間」に溶け込めるのもミニマルアートの心地よさであったりする。見る人が好きなように感じたり、踊ってよい。そこから作品がまた新しくなる可能性を大いにはらんでいる。このダンス・フロアは対角線上にもう1つある。作品から離れて、他の作品を見た後に、同じものにぶつかる。また違った楽しみ方ができるかもしれない、と見る人に思わせる力を備えている。

ガーリン・サンダー
「磨かれた鶏卵」

 ガーリン・サンダー(ドイツ)の「磨かれた鶏卵」は英語のタイトルにraw eggとあるように生卵を使っている。非常に目の細かいサンドペーパーで磨いた生卵はピカピカ輝いている。細長い台の上に置かれているが、「地震があっても落ちなかったんですよ」と受付の方が話す。卵を支えるような仕掛けはしていないのに、だ。もちろん美術作品だから、触れないが「触りたい」衝動に駆られる逸品。ナマモノを長生きさせる現代アート。磨くことで卵に閉じこめたのは何だろう、と作家に尋ねたくなる。命?それとも一瞬という時間?見る人が自由に考えてよいのだろう、きっと。

 そして、1996年惜しくもエイズでこの世を去ったキューバ出身のフェリックス・ゴンザレス=トレスの「無題【共和的時代】」。彼の「無題【偽薬】」でも作品の材料であるキャンディーは自由に持ち帰ってよい、ことになっていたが、今回も同じスタイルをとっている。積み重ねられたポスターを持ってかえってよいのである。私が取材に訪れた際は、20.5cmあったポスターが13.5cm まで少なくなっていた。世界のどこかで私と同じポスターを持っている人がいると想像するだけで、心がワクワクしてくる。作品の一端を自分も担っている!と思うと、この作家の他の作品が見たくなる。新しい作品は無理かもしれないが。

 ミニマルアートの作品は心に強烈な強い印象を残す。芸術って何だろう、と考えるきっかけになる。魔法のような技を持っている。

 「現代のための、現代の人による、現代のアート」こそが、現代美術であると耳にしたことがあるが、ミニマルアートこそ現代美術のひとつの形かもしれないと強く感じた。「そこにそれがないから」とカール・アンドレが作品をつくる理由を語っている。アイディアの宝庫=ミニマルアートとも言えるかもしれない。大いに考えたり、遊んだり、驚いてみたい展覧会である。

◆2001年
6月19日から8月12日までは京都国立近代美術館、10月23日から11月23日までは福岡市美術館にて巡回展が開かれました。◆


2005/3/3更新
トップページへ

ご意見・ご感想はこちらまで

@nifty ID:UHN37474
メールマガジンID:0000042244