Transform the world 2002 @ WAKO WORKS OF ART 〜記憶の断片から零れ落ちてくるもの〜 |
木のフローリングと白い壁、天井に付いているライティングが訪れた人を温かく迎えるギャラリー。実に和やかな空気が流れているのに、どこか重たい空気が感じられる。 作品ひとつひとつにキャプションが付いている。「当初はキャプションを付けていなかったのですが、今回は作品の前で立ち止まって考えてほしいと思ったので短いキャプションを付けました」とのこと。取材中も比較的若い年齢層がひっきりなしに訪れては作品の前で腕を組んだり、キャプションを見つめたりと作品に釘付けになっている。 「案内状で使ったヴォルフガンク・ティルマンスを目当てにされる方もいらっしゃいます」。あまりにも繊細で美しい雪。しかし、それも溶けてしまえばなくなってしまう。寂しさや死を連想してしまう雪・・・。 ギャラリーの外に視線を移すと偶然にも雪がちらついていた。 |
まず、目に入ってくるのが一見普通の家族が住んでいそうなのどかな家。ところが、この家はテロリストによって占拠されているのである・・・。キャプションを読んで、写真のイメージとリヒターの描いた作品の表現するところがまったくかけ離れていることに気づいてただただたじろぐ。 「我々がみている現実をあてにはできません。(・・・中略・・・)みるものすべてのほんとうの姿はべつなのではないか、と好奇心をもつからこそ、描くのです。」というリヒターの言葉(*1)が頭の中に繰り返し響く。 リヒターのモチーフとも言われる“landscape(風景)”を中心にした画集「Landscapes」(出版はHatje Cantz Verlag社)でこの『占拠された家』(1989)のフォトペインティング(油彩)を見たことがある(*2)のだが、茶やクリーム色などで描かれていた。今回展示されている作品はその油彩画を撮影、オフセットプリントで作品化したものだ。 『占拠された家』の左隣には、リヒターが軍服姿の将校、叔父・ルディの写真からフォト・ペインティングしてさらに撮影し作品化したものが並ぶ。リヒターは以前“ぼかす”ことでより普遍的な要素を速やかに付加したかった、というようなことを話している(*3)。“ぶれ”によってルディ叔父さんが微笑みながら動いているようにも見えるのが不思議だ。 気が付くとイリュージョンと現実の世界を行ったり来たりしながら絵を見ている自分がいる。 |
『占拠された家』『ルディ叔父さん』『デモ』の3枚が連作のように並んでいて、テロ、軍、マイノリティという言葉が浮かび上がってくる。どれも“人間”という共通点を持っている。なのに争ってしまう、そんな現実を直視せざるを得ない・・・。 |
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